モダニズム建築を代表するホテル Part1

こんにちは、デザインチームの瀬尾です。
いよいよ花粉の足音がしてきましたね。例年より多いという話も聞こえてきます。花粉症の方もそうでない方も、上手に付き合っていきたいものですね。
さて、本日も引き続き谷口吉郎さん・吉生さんの建築について触れたいと思います。

この写真でどこだかピンと来た方、お目が高い!
『The Okura Tokyo』です。2015年に谷口吉郎さんの設計された『ホテルオークラ東京』は惜しまれつつ閉館・解体され、谷口吉生さんの設計により2019年に新しく開業されました。写真は本館ロビーの様子です。再現された意匠で話題となりました。
と言っても再現の度合いが想像できませんよね。残念ながら当時の姿を私は見ることができなかったので、学生時代から愛読している雑誌をお借りしますと…。建物の向きなど変わっているそうですが、中に入ったときの再現度…見事です。当時を思い出して懐かしむお客様もみえるのではないかと想像します。

オークラは日本の伝統的美意識を表現するために和の意匠が随所に用いられています。例えば、表紙にも載っているテーブルと椅子は、梅の花をモチーフにしています。上から見ると、漆仕上のテーブルが梅の芯になり、5つの椅子が花弁のように見えますよ。絨毯は市松模様ですね。
また、ロビーにある天井から吊り下げられた印象的な照明器具は、切子玉形をモチーフにしています。切子玉は古墳時代の装飾玉の一つで、水晶の結晶の上下を切り落として磨き上げたものだそうです。「オークラ・ランターン」と呼ばれて親しまれています。また、ランプは白熱灯からLEDに替え、昼夜の時間帯によって光のトーンを切り替えることで風情のある光を実現しているそうです。考え抜かれたデザインに感服します。

そして、雪見障子が印象的な壁面の上部には、麻の葉紋の美術組子が設えられています。遠目の写真で見にくいかもしれません…すみません。麻の葉を広げたように見える木組みで、単純に見えて非常に繊細で巧みな文様です。こちらの再現をするにあたり、実に2年以上の工期がかけられたそうですよ。閉館後の調査期間で、葉の輪郭より葉脈が3mm低く組まれていたことが分かったそうです。わずかに見える凹凸ですが、これにより立体感を生んでいたことが分かりますね。以前、建て替えにあたり旧家で使われていた建具を再利用できないかご相談頂いたことがあります。とても素敵な木組みの建具で、職人さんの手仕事を間近で感じることができました。貴重な経験をさせて頂けて、お客様には感謝です。ありがとうございました。
話を戻します。文様の向きも柱などの垂直のラインに対して水平のラインが強調されるように、意識的に考えられているそうです。見上げた目線を考慮したことと、外の光を取り込む際の庇のような役割を考えていることが推測されるとのこと。奥が深いですね。ゆったりくつろいで過ごせるロビーでありながら、より精錬された空間として印象付けられます。

そしてロビーの正面には、開業時と同じ西陣の工房が手掛けた四弁花文が再び飾られました。開業から25年ほど経った頃の色合いに合わせた方が、人々の記憶に近いのではないか、との事で、あえてほんの少し黄色がかった糸を選定したそうです。どこを見ても本当に考えつくされていますね。立場は違いますが、家づくりでも色決めの打合せを行う際、私たちも経年美化を考えてご提案したりします。完成時はもちろん大切ですが、長く付き合って頂きたい我が家です。先を見据えてご提案することはなかなか勇気がいるものですが、この姿勢を見習いたいなと思います。

ロビーの話はこの辺で。長くなりそうですので、続きは次回に持ち越したいと思います!次回もお付き合い頂けますと幸いです。